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がん登録専門部会:活動方針・目的:全国がん登録とは概要

「がん登録等の推進に関する法律(平成25年12月13日法律第111号)」にもとづき、2016年1月1日より『全国がん登録』が始まりました。それまで行われていた『地域がん登録』についてご説明します。

地域がん登録とは

がん診療の羅針盤で通知表

  1. 『がん対策として、検診を精力的に行い、がんの早期発見に力を入れ、関係者が大きな努力をしてたくさんがんが見つかりました。早期に治療して発見された多くのがん患者が死なずにすみました。』
  2. 『がん医療政策を推進するために、がん拠点病院を作りました。数年たってその病院の5年生存率を調べたところ、きわめていい治療成績を示しました。』

どちらも良いことのように読めますが、実は物事はそう簡単ではありません。
検診をしてがんがたくさん発見されると罹患率が上がります。発見されるがんは初期のものが多いので、死亡率は下がります。しかし、発見された患者さんのことだけに注目してもがん医療全体の評価は出来ません。発見されたがん患者は真の救命につながる早期発見をされたのか?やがて見つかるがんを単に先取りして悩病期間を延ばしているだけなのか?はたまた、見つからないなら見つからないままですんでいたような進行の遅いがんが見つかっただけなのか?年齢別の罹患率や死亡率の経年変化を評価しないとがん検診が有効性を示しているのかどうか評価できません。
がん拠点病院を作ってその施設の治療成績がよくても、その地域のその病院の治療からもれた人を含めて評価しないとその拠点病院が地域のがん診療のために本当に役に立っているかどうかわかりません。

それを知るためには、検診を受けた人、がんを発見された人、施設にかかった人だけではなく、地域住民全員を対象にして、がんの発生、がんの種類、発見時の進行度、発見経緯、治療、予後などを把握する事業が必要です。その事業が地域がん登録です。地域がん登録がないと、医療政策の決定や検診事業や地域医療政策の必要性の評価は出来ません。
地域に必要ながん対策を立てるに道標となる情報なので、国立がん情報センターでは『地域がん登録はがん診療の羅針盤』と言っています。

また、施行されたがん対策を評価するシステムの中で最も信用できるものも地域がん登録です。
地域のがん発生数、早期発見率、死亡率などにより、検診や医療政策の有効性の評価が行えます。また、風土や職業、有毒物質による発がんの調査、健康保険や所得による生存率や罹患率の格差調査、2次発がん・3次発がんリスクの解析、長期予後の解析など様々な面で地域がん登録はその意義を発します。ある意味『がん診療の通知表』とも言えます。

愛媛県の地域がん登録

愛媛県の地域がん登録は、県から委託を受けて愛媛県生活習慣病予防協議会の指導、県医師会の協力の下、四国がセンター内に設置された愛媛県地域がん登録室が担当しています。

愛媛県の地域がん登録は1990年から開始されていましたが、地域がん登録の標準的な様式に従ったのは2007年からです。2007年に地域がん登録室に標準データベースシステムを置き、各がん診療拠点病院の院内がん登録のデータ、非拠点病院や診療所の腫瘍登録票、市町村から提供される死亡小票の3つの組み合わせによる地域がん登録が始まりました。

院内がん登録・腫瘍登録票・死亡小票はそれぞれ腫瘍に対する情報を含んでいますが、それぞれから同じ腫瘍に対して複数の情報が提供されることがあります。そこで患者名・住所・生年月日を用いた名寄せとよばれる調整を行い1腫瘍毎に集約してデータベースを作ります。

腫瘍の情報はがん診療拠点病院の院内がん登録から提供されるものが一番正確で情報の質・量が優れています。死亡小票では、死亡したという情報だけは確実ですが、腫瘍の質に関する情報(発見施設、発見経緯、初診時の進行度、組織型、初回治療など)がないので、死亡小票の情報だけで把握された腫瘍の割合(=DCO:Death Certificate Only)が高い地域がん登録は精度が低いとされます。信頼するに足る地域がん登録の基準は、一般にDCOが5%をきることとされています。

愛媛県では標準的な地域がん登録が始まる前まではDCOが50%を超えていましたが、2007年以降徐々に低下し、2010年の段階で10%台の半ばまで下がっています。現状、地域単位では松山市、疾患単位では子宮がんが、既にDCO5%を切っています。まだ、経年変化や生存率の評価が出来るような時間的な情報量が足りませんが、松山市については地域がん登録の整った他の地区と比較可能になりました。しかし、2009年の集計で、市部においてすら、松山市・伊予市・東温市以外はDCOが20%を超えています。松山市以外の地域、他のがんではさらなる精度向上が必要です。